月光物語

もどります。
	詩	物語
夜のダンス

2006年12月21日(木)夜のダンス1～長靴　　もどる

花の薫り。
ふと空を見上げると。あ。春雪さんだ。
そんな気がする。

夜のダンス

その日、不格好な長靴を引きずる様にして、歩いてた。
穴が開いてたのを、無理矢理、ﾎﾞﾝﾄﾞなどで繋ぎ合わせた。限界だ。
やはり、鰐みたいに、ﾎﾟｺﾘと口を開けてしまった。
穴からは冷たい冷気がﾋﾘﾋﾘと足の爪にﾋﾟﾄﾘ。はりついて。
これから帰るね。お前も頑張れ、そう、その鰐になった長靴にｴｰﾙ。
ﾋﾟﾀﾝ、ﾍﾟｼｬﾝ、ﾎﾟﾀｦ、ﾊﾟｼｬﾛ、ﾋﾟﾀﾝ、ﾅｶﾀｶ、ﾎﾟﾀｦ、ﾋﾟﾄﾘ。あえなく。ｱｽﾌｧﾙﾄとの戦いに負けたらしく。ﾋﾞﾛﾘ。
もうこれ、長靴ｼﾞｬﾅｲ。
嗚呼。糸と針が欲しい、家に帰るまでもてばいいから。
通り道に金物屋の看板。針金でなんとか出来ないか。まだまだ、家まで遠い。ﾊﾟｶﾊﾟｶと左足の鰐を動かせた。
ｷｬﾊﾊ。
………もう子供の下校時間は過ぎてるのに。私は、ｷｮﾛｷｮﾛ。

2006年12月22日(金)夜のダンス2～声

ネェ。
ドコニイクノ、オジチャン。
ワニサン、パカパカ。
キャハハ。ソレソレ。ポオン。
エエイ！バシヨン。
私は、声だけが聴こえてくるので、また周りを見渡す。
夜の影が忍び寄る、そんな時間帯だった。
とまっている車の影から、さっと。ピンク。キイロ。ミドリ。
みるまに眩く（まばゆ）瞬く（またた）閃光。それはシュルッと空に舞い上がる。
私は、見上げて、クス。と笑った。
其処には、カバの形の煙や象、兎などの動物の形みたいな、光る雲の様なものが、うかんでいた。
暫しほうけて見つめていた。雪が溶けていく様に消えてしまった。
「もっと見たかったな。」ため息の様に呟いた。

2006年12月23日(土)夜のダンス3～鞄

ワアイ。
また歓声が聴こえた。これは疲れた私の心が体験させるものなのか。
抱えていた鞄がズリｯ。と引っ張られて。鞄がトコトｺ、空を駆けていった。
電信柱の上にのると、鞄は電線を器用に滑っていく。
私は、鰐になった長靴をいそいで脱いだ。
ワニサン、オジチャン、アソボウ、アソボウ。ワニサン、パカパカ、ウレシイナ。
子守唄の様なメロディを奏でて、声があっちからもこっちからも。
まるで輪唱（りんしょう）の様で。此は参った。
鞄には書きかけの原稿に重要書類、そして職業安定所のプリントした紙切れが入っているのだ。手には鰐の長靴。徹夜して、顔には疲れがあるだろう。
こんなおじさんをからかって。

2006年12月24日（日）夜のダンス4～提灯若しくはﾗﾝﾀﾝ
ﾍﾟﾀﾍﾟﾀ。ﾁｶﾁｶ。やはり足が痛い。靴下がきっと、帰る頃には泥んこ。汚れている筈だ。家に一度帰った方がいいだろうか。疲れて、一歩もあるけなくなりそうだ。はあ。と息をはいて、空を吸い込む様に深呼吸をした。手に持っていた長靴を乱雑にほうりなげた。ｵｼﾞﾁｬﾝ、ﾊﾟｶﾊﾟｶ、ｲﾗﾅｲﾉ。声がささやいている。会話が出来るのだろうか。いや、出来たとしても。疲れているのは私の方だから、からかっているのか。？「ｵｼﾞﾁｬﾝ」ﾋｭｯ。地面に落ちた長靴をひとなでした。するとﾕﾗﾕﾗと長靴の中から焔が見えた。提灯かﾗﾝﾀﾝといった所で、ﾌﾟｶｱ。と空にういている。焔がぽわりとあたりを照らす。するとうかびあがった、ｵｶｯﾊﾟというのだろうか。白いだぶっとした服をきた幼子が数人、あらわれた。
2006年12月25日（月）夜のダンス5～コンビニ
ｵｼﾞﾁｬﾝ。ﾊｲ。差し出され、その反動で揺れる長靴。ﾓｯﾃ。おずおず、手を伸ばした。ｱﾌﾞﾅｲﾖ、ｺﾚ、ｶﾑｶﾗ。「へぇっ！」間抜けな声を出した。幼子達は、ｸｼｸｼ笑って。抜けるように消えていった。残った私は、長靴の提灯というかﾗﾝﾀﾝというかを、持っていた。なんだろう。さっきまでのやりとり。本当にあったことなのだろうか。長靴を片方しかはいてない足が酷く哀れだ。兎に角、道を歩こう。ｵｼﾞﾁｬﾝ、ﾆｼﾞｶﾞﾔﾌﾞﾚﾀﾉ。ﾆｼﾞｶﾞﾔﾌﾞﾚﾀﾉ。そうか、破れたか。時折聴こえる声を頼りに歩いていく。鞄をとりかえさないとならないが、まあ、ゆっくり休んでいこう。かすんできた目にふとうかびあがるコンビニ。どうやら個人経営らしく、店員は初老なのか椅子に座っている。客は、若い青年だけ。漫画雑誌を立ち読みしている。今の私の格好でははいれないか。語り草になるのがおちだなあ。足をとめて眺めていると、いつのまにか服を引っ張るものがいる。

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